診療科

膵がんについて

膵臓(すいぞう)について

 膵臓はお腹の奥深くの背中側にあり、食べ物の消化と血糖のコントロールに重要な役割を担っています。胃のちょうど裏側にあり、膵臓の中を走る膵管と膵臓の裏側を走る胆管が合流して十二指腸に開口しており、膵臓で作られた膵液と肝臓で作られた胆汁という消化酵素が腸管の中に供給されています。膵臓は、十二指腸側の膵頭部、脾臓側の尾部、その間の体部の3か所に分けられます。

膵がんについて

 膵がんは、日本人のがん患者のうち男性で8番目、女性で9番目に多い病気で、癌で亡くなられる方のうち膵がんの方は男女ともに4位と、いまだに課題の多い病気です。多くは膵臓内を走る膵管から発生する膵管癌で、見つかった時にはすでに遠い臓器に広がっていることも多く、癌が局所にとどまっていて手術できる人は5人に1人と言われていました。しかしながら、昨今では早期発見や微細解剖を認識して行う緻密な手術手技の発展、複数の薬剤を組み合わせて行う化学療法(抗がん剤)の進歩から、治る方が増えてきています。

厚生労働省健康局がん・疾病対策課 全国がん登録の概要
厚生労働省「2018年人口動態統計(確定数)」

 お腹や背中の痛み、黄疸(体が黄色くなる状態です)や食欲の低下、糖尿病の悪化で見つかることが多い病気です。近年は全く症状がなく、人間ドックなどの健康診断やほかの病気で精密検査を受けた際に偶然見つかり、早期に治療を行える方もいらっしゃいます。

ステージ(病期)と切除可能性

ステージ(病期)

癌の大きさや周りの組織への広がりの程度(T分類:がんの深さ)、リンパ節転移(N分類)および遠隔転移(M分類)によってステージが決定します。

膵癌取扱い規約(第7版増補版)2020年9月 より引用

切除可能性

他のがんと異なり、膵がんではステージとは別に、手術による意味のある切除の可能性から3段階に分類され、それぞれにおける適切な治療方法が分かれています。

膵癌診療ガイドライン2022改編引用

治療方法

手術

 膵がんの治療法として、目にみえる病変を手術ですべて取り切ることが最も有効です。病気のある部位によって、膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術などで腫瘍を切除します。

周術期(術前・術後)補助化学療法

化学療法とは
 いわゆる『抗がん剤』治療のことを『化学療法』と言います。内服薬や点滴治療などいくつかの選択肢があります。当院ではキャンサーボード(多職種カンファレンス)で、 化学療法を含めた適切な治療方針を決定しています。

術前補助

 膵癌は全身病であり、検査ではわからない微小遠隔転移などの可能性があるため、手術前に化学療法を行うことで、再発率が低下し、予後が延長することがわかっています。薬剤が効かずに化学療法中に遠隔転移が出現する場合があり、手術適応を見極められる可能性もあります。一方で、術前画像評価には限界があること、待期期間中の腫瘍増悪や術後合併症増加の可能性などの問題もあるため、ガイドラインで『弱い推奨』とされています。

術後補助

 手術で目に見える病変は切除できましたが、すでに全身に微小な転移がある場合があります。手術後に抗がん剤治療を行うことで、再発率を下げられることが科学的に 証明されています。目的は『再発予防』です。

切除不能・再発
 検査で肝臓や肺に転移を認める場合(遠隔転移)、あるいは周囲の主要血管に浸潤がある場合(局所進行)、また手術後に癌が再発した場合は、手術で根治することは困難な状況です。‘手術’=‘病変の切除’は体に負担をかけることになるため行わず、化学療法を早期に導入します。目的は『延命と症状緩和』になります。

診療体制

 当科では、膵がんの治療、手術に専門的に従事する日本肝胆膵外科学会高度技能専門医が2名、日本内視鏡外科学会内視鏡技術認定医が3名在籍しております。いずれも厳しいビデオ審査を経て得られる専門性の高い資格であり、患者さんと病気の状況に応じて、開腹手術とロボット手術(場合によって腹腔鏡手術)を使い分けて、安全で確実な治療を行っています。
 ロボット手術を含めた体に優しい低侵襲手術については、日本の膵がん治療の第一人者である東京医科大学病院永川裕一教授と連携して行っています。