専門治療

経皮的冠動脈形成術(PCI)

経皮的冠動脈形成術(PCI)とは、手首の血管から管(ガイディングカテーテル)を入れて、その管の中にさらにもう一つの管(バルーンカテーテル)を挿入し、閉塞した冠動脈の病変部を拡張する治療法です。胸部を切開することなく、血管の手術が可能です。急性心筋梗塞だけでなく、狭心症の治療にもよく使われる術式です。

心臓病で突然死しないために

冠動脈

狭心症や心筋梗塞は図1のような冠動脈という心臓の栄養血管に動脈硬化が発生することが原因となって起こります。
一般的にはこの動脈硬化が高度になり、冠動脈の血流が低下すると、一過性の胸痛が起こり(狭心症)、さらに進行すると冠動脈が閉塞してしまい心筋梗塞になると理解されています。

中等度冠動脈硬化

しかし近年の研究で、実際に心筋梗塞を起こしてしまう人の約半数は前触れの狭心症状がないことが分かってきました。
これは図2のように動脈硬化(プラーク)があまり高度でなくとも、なんらかの原因でプラーク表面に傷がつき、そこに血栓という血液の塊が短時間で形成されて冠動脈を閉塞するからなのです。このように軽度~中等度の冠動脈硬化の状態では症状もないことが多く、またたとえ狭心症の検査(運動負荷検査やホルター心電図検査)を受けても異常が検出されないことが普通です。まして一般の健康診断で行われる心電図検査はまったくの無力と思われます。

カテーテル前後

私どもはこのような冠動脈病変の検出や危険の予知にもっとも有効なのは冠動脈造影検査と考えています。当院では手首の血管(橈骨動脈)を使用する冠動脈造影検査を行っております。手首の血管から検査を行うことで、検査後の安静はとても楽なものになります。検査時間は10~15分くらい、二泊三日の入院で冠動脈造影検査が行えます。もしも、冠動脈に危険な病変が見つかった場合は、ほとんどの場合、手首の血管を使用したカテーテル手術で治療を行うことができます(図3)。
突然死の約8~9割は、原因が心筋梗塞であるとも言われております。現在何らかの胸部症状がある方、あるいは症状がなくても血縁者が心臓病でなくなっていたり、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病などがあり不安な方は、ぜひ内科外来にご相談下さい。

冠動脈造影

人間の心臓は1分間に60~80回、1日に約10万回収縮と拡張を繰り返し全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。この働きを行うためには心臓自体にも酸素が十分含まれた血液の供給が必要で、この役割を負っているのが冠動脈という血管です。
冠動脈は1本の右冠動脈と2本の左冠動脈の合計3本からなり、根元付近の太さがだいたい3~5mmくらいです。この冠動脈にも動脈硬化が起こります。特に高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙、肥満、虚血性心臓病(狭心症、心筋梗塞)の家族暦を持っているなどの危険因子を持っている方は注意が必要です。このような方の冠動脈の内膜にはプラークと呼ばれる脂肪のかたまりが形成されて、徐々に冠動脈内腔が狭くなることがあります。この冠動脈狭窄の段階では心臓が血液不足になるため、身体に負担がかかったりすると胸が締め付けられたり、圧迫されるような狭心症状が出現します。さらに、病変が悪化すると、この狭窄病変が血栓で急性閉塞して心臓が壊死を起こす急性心筋梗塞を発症します。急性心筋梗塞は放っておけば30~50%くらいの確率で死亡するとされている大変危険な病気で、突然死が多いのが特徴です。突然死全体の8~9割が急性心筋梗塞であることも、東京都の疫学調査で確認されています。
また最近の研究では、急性心筋梗塞は前触れの狭心症状がないことが多いことも分かっており、危険因子を持っていて、そのコントロールが悪い人は症状がないからといって安心できないと言えます。
以上の理由から私どもは明らかな狭心症状や心電図に変化がある方以外にも、危険因子を複数お持ちで虚血性心臓病発症の危険があると考えられる方には冠動脈造影をお勧めしています。冠動脈に狭窄病変があっても、症状がないときの心電図所見では全く診断はできませんし、運動負荷心電図検査でも実際に病変がある人の7割程度しか診断できません。逆に言うと3割くらいは見落としてしまうのが運動負荷心電図検査の限界でもあります。

私どもの行う冠動脈造影では、手首の血管(橈骨動脈)からカテーテルを挿入するため、検査後もご自分で食事ができますし、ご家族の付き添いも不要です。
もし、病変があった場合でも9割の方は同じ手首の血管を使ったカテーテル手術で治療が可能です。

冠動脈造影検査

冠動脈造影検査

当院では全体の9割くらいの方が、冠動脈造影を手首の血管(橈骨動脈)から行っています。まず手首の部分を歯医者さんが使用するのと同じ麻酔薬で局所麻酔します。次に穿刺針で血管を捕らえ、ガイドワイヤーを挿入し、シースと呼ばれる管を橈骨動脈に留置します。痛みは最初の麻酔薬の注射のときだけで、この後は痛みを感じずに検査ができます。
この後はカテーテルをガイドワイヤーとともに冠動脈まで進め、左右の冠動脈を造影します。終了したら、カテーテルを引き抜き、最後にシースを抜去して、空気のバッグで止血します。シースが挿入されてから抜去されるまでだいたい10~15分くらいです。


冠動脈造影検査の流れ

検査後は30分前後カテーテル検査室の隣の部屋でいすに座って安静にしていただき、その後病棟に帰ります。1時間のベッド安静後は歩行が可能で、食事もご自分で可能です。止血のための空気バッグは翌朝取り外して退院となります。

検査の合併症について

このような検査を受けるにあたって、もっとも心配なのは検査による合併症です。全国的には冠動脈造影で以下のような合併症で死亡するといった報告があり、危険性が全くないとは言い切れません。

主な合併症
  • 造影剤のアレルギー(特に激烈なショック)

  • 造影剤による腎不全、心不全(悪化の場合は血液透析が必要)

  • カテーテルによる冠動脈の損傷

  • カテーテルによる大血管損傷

  • カテーテルにより大動脈のプラークを飛ばしてしまうことでの脳梗塞や腎梗塞

手首の血管(橈骨動脈)からカテーテルができない方

橈骨動脈は日本人でだいたい1.5~3.5mmくらいで、この範囲ならば冠動脈造影が可能ですが、橈骨動脈が1mm以下の方は上腕動脈からシースを挿入します。上腕動脈はその脇を正中神経が走行しており、出血して血腫を形成すると上肢が麻痺してしまう危険があります。さらに、上腕動脈は肘の部分にあり検査後に出血しやすい特徴があるため、止血には2日間を要し、入院期間は2泊3日になります。
また、上腕動脈もなんらかの理由で使用できなかったり、血液透析を受けている、または将来受ける可能性がある方では、上腕動脈を温存するために足の付け根の血管(大腿動脈)からシースを挿入します。この場合は止血のために検査後数時間はベッド上安静が必要になるため、ご家族の付き添いをお願いしております。

冠動脈インターベンション

PCIとは冠動脈に挿入したカテーテルを通じてバルーンやステントを冠動脈内に挿入して、冠動脈狭窄を拡張するカテーテル手術です。私どもの病院では全体の8~9割の方は、手首の血管(橈骨動脈)からカテーテルを挿入します。診断目的の冠動脈造影のときと同じで、痛みは最初の局所麻酔のときだけで、意識もはっきりした状態で治療を行います。治療時間はだいたい30~60分くらいで、術後は3~7日の観察期間後に退院となります。

冠動脈インターベンションの注意点

PCIを受けるにあたり、全く危険性がないとは言えないことをご理解頂きたいと思います。冠動脈病変をバルーン拡張した際にプラーク内容物が血流に飛び出して冠動脈末梢に塞栓して急性心筋梗塞を発症したり、カテーテルにより冠動脈入口部を損傷してしまう危険などがあります。治療後にもっとも注意が必要なのは、ステントを使用した方でステントの金属部位に血栓が発生してしまうことです。この予防のために治療3日前から血液が固まることを防止する薬剤(アスピリン2錠、チクロピジン2錠など)を服薬していただきますが、それでもステント部が治療後1週間以内に急性塞栓することがあります。このため、治療後無症状でも3~7日間の入院観察期間を設けています。
また診断カテーテルの場合と同じように、造影剤・カテーテルを使用する際に避けて通れない合併症もやはり存在します。
また、PCIには現在はまだ、病変部が治療後に、治療前と同じように狭くなってしまう再狭窄というも問題があります。このため治療後6ヶ月以内に、確認のための冠動脈造影1~2回受けることをお勧めしています。

当院のPCI

以上のような注意点はあるものの、PCIは身体に対する負担も少なく、入院期間も短くてすみます。また、私どもの病院ではPCIの様子を直接ご家族に公開しております。主治医の説明を聞いたご家族お二人までとさせていただきますが、直接ご覧になることで治療の内容もより良くご理解いただけるものと思います。
私ども循環器スタッフも全力で治療に当たらせていただきます。ご一緒に頑張りましょう。