バスキュラーアクセス

バスキュラーアクセスとは、透析シャントのことです。
透析シャント(dialysis shunt)は、透析治療を行うために使用される血管経路を示します。
透析機器と繋げることで、血液をろ過し、体内の老廃物や余分な液体を除去し、戻すために使用されます。
血液療法に必須であり、その管理は患者さんの予後に影響を与えます。

バスキュラーアクセスの種類

① シャント(自家動静脈樓・AVF)
動脈と静脈とつなぎ合わせて、動脈の血液が静脈に流れるようにした外科手術で作成されます。
これにより、静脈の血液流量が多くなり、短時間での体内の浄化が可能となります。透析治療のバスキュラーアクセスでは、最も多く広く使用されています。
本邦では2017年の調査で平均して89%以上の患者さんがこの方法を使用しています。→手術する部位は、主に腕(親指の付け根のたばこ窩という部位や手首付近が主)に作成します。当院では、伝達麻酔を主に行い、患者さんには無痛で受けていただいています。手術時間は1時間程度です。埋没縫合で、抜糸の必要もなく創部も目立ちません。

② 上腕動脈表在化
非シャント型のバスキュラーアクセスです。
シャントにより、血液流量が多くなります。このシャントによる、心負荷に耐えられない方に適応となる、心臓に負担がかからないバスキュラーアクセスです。脱血ルートとして使用しますので、他に1本返血ルートが必要です。
→上腕動脈(二の腕の動脈)を皮下に持ち上げて穿刺可能な状態にします。
伝達麻酔で行います。手術時間は1~1.5時間程度で終了です。皮膚切開は10㎝程度と長くなりますが、埋没縫合で閉鎖し抜糸の必要なく、ある程度の期間で傷も目立ちません。

③ 人工血管移植術(AVF)
人工血管を用いて動脈と静脈をバイパスする方法です。
シャントとして使用できる適切な血管がない方の場合に、人工血管を移植することにより、シャントが作成可能となります。主に前腕や上腕(二の腕)に移植します。
人工血管は、主にe-PTFEとPU製があります。それぞれの利点を理解し、患者さんの状態を考慮してオーダーメイドに使用しています。
→伝達麻酔・全身麻酔で行います。手術時間は1.5時間程度で、約2センチの皮膚切開を3か所程度で移植可能です。抜糸の必要もなく、体にしなやかになるように移植しています。
人工血管の種類により、術直後からの穿刺も可能、すぐに使用可能です。

④ カフ型カテーテル
長期留置カテーテルのことを指します。
日本透析医学会:「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製と修復に関するガイドライン2011年版」では、長期留置カテーテルの適応は、①自家動静脈内シャント・AVFまたは人工血管内シャント(AVG)造設不能例、②高度の心不全症例、③四肢拘縮・認知症などによる穿刺困難例、透析中の自己抜針リスクの高い症例など患者さん病態から本法が最も適切なバスキュラーアクセスと考えられる症例、④小児の透析患者さんとされています。
当院でbridge use(次の手術までのつなぎ)として使用も行っています。この場合は、入院し続ける必要はありませんので、患者さんの負担も軽減されると思います。
→局所麻酔で行います。首から(右内頚、左内頚静脈)アプローチし、出口は右か左の肩の下付近となります。ここから15㎝管が体外に露出しています。この部位から下の入浴は可能ですが、感染や閉塞には注意が必要です。

バスキュラーアクセストラブル

  • シャント狭窄
  • シャント閉塞
  • シャント動静脈瘤
  • 静脈高血圧
  • 過剰血流
  • スティール症候群
  • その他

トラブルの対応方法

① 経皮的血管形成術・PTA
VAIVTとも呼ばれています。
バスキュラーアクセス・シャントは、通常の血流量とは異なる血管であり、週3回2本の穿刺針を穿刺するという行為を繰り返します。経時的に内膜肥厚や瘢痕狭窄、静脈弁などが狭窄の原因です。吻合部上流の狭窄が多く、脱血不良となります。中枢側の狭窄は静脈高血圧となり、再循環など引き起こし、透析効率が低下、透析関連合併症につながります。狭窄の前後で、シャント動静脈瘤が形成されるもあります。放置すれば、シャント閉塞に至ります。
この血管を拡張することで、シャントの機能を維持し、透析の効果を高めるために重要です。
→外科手術とは異なり、非侵襲的に行われます。
局所麻酔を行い、シースという細い管を挿入します。血管の状態を確認するために造影検査(当院ではデジタルサブトラクション:DSA)という撮影方法で、血管のみを抽出した画像を観察します。全体のシャントの状態を把握し評価を行います。シースから風船つきのバルーンカテーテルを狭窄部に誘導して拡張します。

拡張時間は各狭窄部に1-2分間程度。施行時間はトータルで1時間程度で終了です。
定期的に行うことで、シャント機能が安定し、透析効率も高めることが期待できます。
当院では、頻回の狭窄や高度な狭窄病変に対して、薬剤コーディングバルーンを用いて、長期開存率を高める治療が可能です。

アレルギーなどで造影剤が使用できない方には、超音波を用いて、造影検査を行わずに施行対応も可能です。
シャント閉塞に対しては、同じようにPTA治療と併用して、血栓回収を行い、狭窄部を拡張して血流を再開させます。
血栓回収には、血栓回収用のデバイスを用いて施行しています。
血流が開通と同時に、力強く血流が流れてきます。

② 外科的再建
カテーテル治療でも安定した血流量が得られないバスキュラーアクセスは外科的再建の適応となります。
狭窄部より上流で再吻合します。
スティール症候群は、手先への盗血されるため起こる血行障害で末梢のチアノーゼなど呈します。
こちらもシャントの形状にて、適宜外科的再建の適応となります。

③ 動静脈瘤摘除術
シャント動静脈瘤が感染や切迫破裂の兆候(光沢お帯びてきたなど)が生じてきた場合、動静脈瘤を摘除して、上流で再吻合手術を行います。

④ 血流制御
シャントが作製されると、動静脈短絡樓により、大量の血液が静脈側に流れ込みます。動脈静脈の径の拡大血管壁構造が変化します。これがシャントの発達という現象です。
循環動態の許容範囲を超えたものを過剰血流と言います。心拍出性心不全や不整脈、静脈高血圧、スティール現象、さらには全身のスティール現象が引き起こされます。
→これに対して、血管縫縮手術が適応となります。
伝達麻酔など行い、過剰な血流を縫縮することで、適切な血流となります。